京都大学数学教室の院試について

他人の試験の体験記を見るのが好きなのでそういう人のために雑に記録しておきます。

専門基礎4完半、専門1完(もう1問は手も足も出なかった)、英語はとりあえず書き上げた、口頭試問は…、程度の者です。それぞれ少し細かく説明していきます。

専門基礎

専門基礎は6問から成り、問題構成としては重積分や簡単な行列計算で解ける線形代数などの一回生程度の内容が1問ずつ、一様収束性や少し回りくどい極限に関する難しめの微積が1問、後は各専門分野の基礎となりそうな問題が1問ずつ出されているように思われます。具体的には複素積分微分方程式などの解析系、少し手の込んだ線形代数や簡単な群論、環論の代数系、そして多様体位相群位相空間論などの幾何系です。

 

専門

自分は代数系でしたが、今年は群論と環論の2題のみの出題でした。年によってはこう言う場合もあるので群環体まんべんなく勉強しておいた方が焦らなくて済みます。そして面接を付け焼き刃で挑みめちゃくちゃメンタルを崩すこともなくなるでしょう。

過去の傾向としては体論、ガロア理論がある程度部分点を狙いやすく、群論は道具の使い方というか群の構造を調べるときは何を考えればいいのかが過去問の過学習で何となく分かっていくと思うので得点源にできそうかなと思います。環論はよくわかりません。局所化の何が嬉しいのかとかをちゃんと学んでおけばよかったんでしょうか。

教科書からちゃんと学びましょうとしか言えません。似たような演習問題を解き続けてなんとなく解法暗記をするのではなく都度教科書に戻ってなんの性質が効いて解けるのか、ということを身につけておくべきでした。

英語

和訳と問題文の英訳+解答を英語で書くだけです。

和訳は普通に読めるでしょうし英訳も今はいい参考書があるので決まりきった表現や固有名詞を英語で覚えなおせば問題ないはずです。ただこれは今年だけかもしれませんが、不等号も含むほとんど全ての記号の使用が禁じられたので以上、以下などの表現も見ておいた方がいいでしょう。

口頭試問

解けなかった問題について進展があればそれについて話します。ある程度準備しましたが緊張のあまりほとんどまともな説明ができませんでした。その後専門科目に関する基本的な問題や修士以降前提となるであろう少し進んだ知識について聞かれましたが、良い返答はあまりできませんでした。

ああ言えばよかったこう言えばよかったと苦悶し続ける日々を送りたくなければ常日頃からアドリブの必要な発表を友人と行うべきでしょう。あるいは多くの数学科生が日々の交流の中で培ってきた数学を議論する能力が自分には無かっただけかもしれませんが。

余談

これまでの受験と異なり模試がないので自分で時間制限をつけた演習などを行なっていないと本番で非常に焦ると思います。できれば本番に近い形式で何度か時間を計って演習してみてください。

また、専門科目については問題演習の量よりもどれだけ問題に向き合ったかが重要だと思います。解法を何となく覚えていくのではなく問題に向き合い使えそうな定理を探し、なぜうまく行かないかを考え、また別の性質に目を向ける。このようにすることで養われる数学的なセンスがあるように思いますし、こうしたセンスがある程度なければいずれ苦労するだろうという予感がしています。

 

京都大学理学部数理科学系における専門科目

一通り専門科目を履修したので感想等を残す。代数学幾何学解析学はどうせみんな取るのでそれ以外をある程度書いた。非線型解析だけは履修していないので申し訳ない。

前期

複素関数

関数論の続き。とは言えだいぶ難しい。正直言って内容が濃すぎてほとんど覚えていない。Riemann球面を導入して正則関数の位相的な性質に関する理解を深めたり、留数定理の応用として二つの正則関数のある領域内での零点の個数が一致することを示したり、正則関数列の収束先にどのような性質が保存されるかみたりする。あるいは特異性、つまりは極としてこういう点を持つみたいな正則でない点に関する情報、を持ついい感じの関数は存在するのか、みたいなことをやる。Mittag-Lefflerの定理を用いて三角関数の奇妙な和公式を導いたりして結果は面白い。後は無限積を定義したり楕円関数やアイゼンシュタイン級数を少しやる。

大体アールフォルスと同じことをやるらしいので気になったらそっちで内容を確認してほしい。

代数学

可換環論、というか加群論をやる。代数学入門程度の知識は必要、というか代数学の議論に慣れてないと辛い。少なくとも準同型写像や同値類で割って計算することに慣れておいた方が良い。

アティマクや青雪江を参考にするといい。

幾何学

多様体論をやる。たしかストークスの定理あたりまでをやる。ベクトル解析や幾何学入門の微分幾何的な部分の一般化というか発展みたいな感じ。

多様体の基礎やTu多様体を参考にするといい。

微分方程式

微分方程式の初期値問題の解の構成をする。アスコリアルツェラの定理とか連続性の細かい分類はここで初めて遭遇するかも。2点境界値問題を題材に積分微分を線形作用素とみて固有値問題に帰着させて考えたりする。その後は解析的な関数というクラス、ようは冪級数で表される関数を導入して特異性を持つ微分方程式の解を冪級数で解いてみるみたいなことをする。ガウスの超幾何級数やベッセル関数、ノイマン関数とかが出てくる。

朝倉書店の微分方程式の基礎を参考にしてたが講義ノートが丁寧だったのであまり使ってない。

解析学

ルベーグ積分を頑張る。集合というか位相的なものの扱いに慣れていた方が良い。

参考書はなんでも良さそう。

計算機科学

意味論をやる。だいぶ論理学っぽい。そこまで前提知識は必要ないが強いて言えば集合論の言葉に慣れておいた方が良い。

参考書というか講義ノートが充実してるのでそれで勉強しよう。

後期

関数解析

無限次元の線形代数と言われてたりする。ただ行列のような便利なものがない中色々な理論が出てきて面白い。解析学Ⅰの知識が無いとL^p空間などの具体的な空間について何もわからない。Banach空間、Hilbert空間といった空間について考え、その後は空間の間の作用素について学んでいく。解析学の分野ではあるがだいぶ代数的な感覚が活きている分野だと思う。割と緩そうな仮定から強い性質を導けたり面白い分野だと思う。

参考書としては黒田関数解析や泉先生の数理科学のための関数解析学が良さそう。というか後者はこの授業の講義ノートをもとにしているらしい。

代数学

体論というかガロア理論をやる。ガロア群を計算するので群論を復習しておこう。終盤はガロア理論の応用として作図問題や五次以上の方程式は代数的な一般解が存在しないことを示したりする。ガロア群の計算で群論を用いるのでそこら辺の知識は必要。加群論とはだいぶ趣が違うので代数学Ⅰの知識はあまり必要ない。

青雪江や桂代数学Ⅲ、ロットマンとかが参考になる。

幾何学

代数トポロジーをやる?微分形式から始まってマイヤーヴィートリス系列をいじってコホモロジーを計算した。だいぶ難しい気がする。というか難しい。幾何学Ⅰとはうってかわって代数的な考えをメインに進んでいく。よくわからないまま完全列の計算をしまくっていたら単位が取れてしまった。単体複体は少し面白いと思えるだけの余裕があった気がする。でも結局難しい。

参考書としてはdifferential forms in algebraic topologyとかだろうか。単体複体については裳華房位相幾何学を参考にしたが他にもっといいのがあるかも。

数値解析

微分方程式をコンピュータで解く、実際には近似解だが、とはどういうことかを学ぶ。コンピュータ上では極限操作なんかできないので微分を差分で近似して上手く近似解を求めるのだが、その際の差分の取り方によってはめちゃくちゃな解が出たりするのでそのアルゴリズムの評価をして数学的に正当化したりする。また、コンピュータは有限桁しか情報が保存できないので計算誤差が出てしまう。アルゴリズムによっては誤差が蓄積したりするので誤差も考慮したアルゴリズムを考えたりする。数学的な正当化にFourier解析や関数解析の要素が入っていたりするので同時期に受講するとちょっとお得な気がする。

参考書はよくわからなかった。絶対値の三角不等式を用いた評価がちゃんとできるならなんとかなるはず。数学が実用的に役立っているのがわかって安心した。

解析学

周期関数のFourier級数展開を学び、Fourier変換へと進んでいく。解析学Ⅰでルベーグ積分を支えるようにしておきたい。変な等式とか学べる。なんかCTスキャンとかに役立つらしい。微分方程式が格段に解きやすくなったり色々便利なものが学べる。後半では超関数を導入してちょっと広い見方を学べる。デルタ関数は関数じゃなかった。

参考書は何もわかりません。講義ノートがめちゃくちゃ丁寧だったので。

京都大学理学部における系登録

タイトルの通りの雑感なので見出しすら存在しないのを注意されたい。

今年度の数理科学系における系登録は系登録試験も行わず、試験免除者も発表されなかった。文面を載せることはできないが、通達の文面から読み取れることから、系登録試験はそれ単体で合否が決まるのではなく、あくまで常日頃の成績と合わせて判断材料にされるということだった。来年度以降もこうした基準のもと、系への受け入れが行われるかはわからないが、系登録試験での一発逆転を期待して希望調査を提出するのは控えたほうが良いだろう。
以下、成績とか考えるとこうしといた方が有利だったかもなという個人の感想

微積、線型は成績を取るのはもちろんだが、機械的な作業ばかりできるようになるのではなく、ちゃんと細かい議論を追っておけばよかった。このことは現代数学の基礎において痛感した。現代数学の基礎は一回生で集合と位相を取らないのであれば、数学的な議論を習得する最初の講義となるので真摯に取り組んだ方が良い。授業と演習の週が交互にあるからと言って授業をさぼっては身につくものも身につかない。

理学部専門科目は成績更新が可能なので一回生のうちにとりあえず履修してB以上が取れなければまたとればいいぐらいのつもりで良かったかもしれない。特に集合と位相や代数学入門は前提知識がそこまで必要でないので。また、毎年評価方法や評価の甘さ辛さが変動するのである先生で全然テストができなくても再度とればよい。同じ先生であってもサービス問題がないほうが評価がめちゃくちゃ甘くなったり成績は読めないので不安なら再履修したほうが得。逆に全共の科目は一度D以上を取ってしまうと上書きできないので早めに撤退するかどうか判断したほうがいい。一方でベクトル解析のような二回生前期で履修するのが標準的とされているものは後期では開講されているコマ数が少なかったりなかったりするので注意。

専門基礎科目が足りなければ他の系のリレー講義や生物、地学系の一回生向けを取るのがベター。化学や物理の講義よりは楽しいと思うが、これは主観がだいぶ入る。教職科目の単位や数学深訪のような卒業単位(⊃系登録要件)に含まれない科目をカウントしてしまい、単位が足りず系登録できないという事態には気を付けて。(実際に70単位持っていたが、内68単位のみが系登録要件であり、系登録できなかった人がいるらしい。)
二外は好きなものを取ればよいが、取りたい科目とブッキングしうるのでその場合は再履修に回してもよいかも。理学部は何でもよいから8単位揃えろなので別に一つの言語で揃える必要はない。一つの言語を一年間やった方が楽だろうけど。メジャー言語は先生が大勢いるので俗にいう当たりとはずれの概念が発生するが、マイナー言語は講義を自分で決められるし、先生が一人しかしない言語であったり、はずれはない。E科目は人社との科目に目が行きがちだが、自分で勉強できるなら専門基礎科目のE2科目を取るのもよい。テスト一発のものもあるので回答の書き方をある程度抑えておけば数式で殴れる。あるいは二回生向けだが科学コミュニケーションなども単位は取得しやすいと思われる。

人社は好きなものを取ればよいし、案外興味ない分野であっても面白かったりするのでいろいろ取ってみることをおすすめする。可能なら成績評価方法もばらけさせてレポートなら頑張れるのか、テストの方が効率いいのかなど、自分なりに単位が取りやすい形式を把握しておくと取る講義の指針が立つかもしれない。